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サブスクとは結局何なのか。なぜ今サブスクなのか。書籍「つながりの創り方」レビュー

2019年9月30日

サブスクが流行り始めてから、数年経ちますね。
雑に言えば、サブスクとは定額制課金のスタイルであり、モノを買うのではなく利用する、ということになります。
でもね、それは表面的で危険な理解。そういう理解では、サブスクを始めても失敗するのです。この本を読んでよくわかりました。

サブスクじゃないのに、サブスクのような効果が出ている家電店とは

どんなときに、ファンになりますか。企業の。

例えば、Apple。例えばスタバ。イメージできますよね。ブランドイメージや、製品そのものに対するファンがつく。しかし。そういうものとは別に、驚異のファンを獲得している電器屋が、東京は町田にあるそうです。

家電は、ネットで最安値を探して買うのが当たり前。そうなってから何年も経ちますね。ネットに詳しくない高齢の方だって、大型量販店へ行って、安いところから買うわけです。ところが、お客様から常に定価で買ってもらえる、街の家電屋があるというのです。売り上げ9億円、粗利益は年4億円。すごい。街の家電店って、修理やエアコン取付工事とかで食べてると思ってた。

いったいこの家電屋は何をしているのか。

ずばり、お客様のためなら何でもしているんです。買ってもらった家電の設定をしてあげる、なんてのは当たり前。電球の取り換え、模様替えの時の配置換えなどから、なんと、お客様が旅行中の間、ペットの世話や鉢植えの水やりまで。もちろん無料。

そこまでのサービスをしても、街の家電屋が儲かるものなのか。なぜ儲かっているのか。みんなにそんなサービスを提供したら、身が持たないんじゃないか。留守中の番を頼むって、家電屋の営業に、家のカギを預けるってこと? いろいろ疑問が思いつきますね。冒頭の本に、そのあたりの詳しい話が書いてあります。

結局、サブスクとは何を狙うものなのか

詳しくは、本を読んでもらうのが一番ですが、一言で言うと・・・

これまでは『どう売るか』が大事だった。これからは、『顧客とどうつながるか』が大事になっている。

ということです。つまり『売るというのは、顧客とのつながりの、ほんの一瞬に過ぎない。売った後はもちろん、売る前も顧客と頻繁につながっていくことが大切』ということなんです。そのための方法のひとつとして、「1回の支払いで関係が終わらない」サブスクがあるんですね。逆に言えば、お客様とつながり続けられるなら、支払いは1回だけでもいいわけです。それを実現しているのが、前述の家電屋です。

ちょっとまだわかりにくいと思うので、クルマを例に考えてみましょうか。

あなたはクルマを買いました。ディーラーの営業マンから、3か月点検、1年点検、ハロウィンやクリスマスイベントの案内が届きます。よくあることですね。そう。これくらいじゃ、今の世の中、よくあることなんですよ。

ところが。例えばこんなお知らせが来たらどうですか。

  • そろそろ洗車したほうが良いですが、明日は雨なので、明後日にするといいですよ。洗車機を用意してお待ちしています。
  • 暑くなってきましたから、エアコンの試運転をしておきましょう。変なニオイはしませんか。お金をかけずにニオイを取る方法は、こんなのがあります。
  • 来週の連休に、遠出の予定はありますか。遠出の前にボンネットを開けて、ここだけはチェックしておきましょう。わからなかったらディーラーへ来てもらったら無料で見ますよ。
  • キャンプを始められたのですね。〇〇のキャンプ場、良いですよ。行く途中のこのディーラーに割引券がありますので、よければどうぞ。

以上、私が今、勝手に思いついただけですが、どうでしょう?こんな風に「クルマを使った生活すべて」にフォローがあったら、いまよりずっと、ディーラーに行く頻度も増えるし、メンテナンスも、少し高くてもディーラーでやろうかな、と思いますよね。街のカー用品店より、自分のクルマについて、また、自分がクルマをどう使っているかについてよく知ってくれているんだから。初めての医者より、いつもの主治医へ行くほうが安心、みたいなものです。

逆に、街のカー用品店がこういうことをやりだしたら、ますますディーラーには行かなくなるでしょう。別に、ディーラーにしかできないことではありませんし。

買う前も、買った後も、顧客と頻繁につながる、とはこういうことなんですね。(そこに商売っ気を入れては台無しですよ。あくまでお客様に寄り添うことです。)

テクノロジーが、つながり続けることを容易にした

もちろん、商売っ気ゼロの連絡でも、ウザいと思う人もいるでしょう。ひとりひとりが心地よいと思う程度に合わせて、また、情報の内容に合わせて、LINEで知らせたり、メール、電話、あるいは訪問を使い分ければいいのです。もはや、テクノロジーはそれを可能にしています。やるか、やらないかだけです。そして、やるなら早くやらないと。クルマの例で言えば、同時に2社のファンになるということはないわけですよ。2台以上クルマを持ってるお金持ちは置いといて、ね。ならば、一刻も早くファンになってもらわないと、あとで寝返ってもらえるチャンスはかなり少ないです。だってこれだけ頻繁に接触するんだから。1年放置とかなら、いくらでも寝返りを仕掛けられるけどさ。

しかしこうなってくると、ここ数年の流れとは逆に、地域に根差したリアル接点を持っている企業が有利になってくる気がしますね。冒頭の家電屋さんも、今以上の規模ではやれない、と割り切っているようですし。どうもやっぱり、ローカルで小さいビジネスに商機が来ている気がするなぁ。

ともあれこの本、お勧めです。特に、サブスクをただの定額制課金だと思ってるビジネスマンは、必読です。

photo credit: Stefan-Mueller.pics (Thanks for 3Mio views) Al Barr | Dropkick Murphys via photopin (license)

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