書評 考察・意見

IoTは日本の文化と合わないかもしれない

これ、読みました。 

IoTとは何か 技術革新から社会革新へ (角川新書)

IoTとは何か 技術革新から社会革新へ (角川新書)

 

 
良かった。もう何十年も前にIoTの概念を提唱したのが坂村さんだったとは。
TRONに夢中になってた自分としては感慨深いものがあります。

どういう本なのか

いわゆる技術的な解説書だと思うと、違います。
その側面はもちろんあるのですが、やっぱり思想・コンセプトの解説が抜きんでています。最初に思いついた人なんだから、そりゃそうだよね。
 IoTというのは世の中的に、「技術的にこういうことできるようになったけど、何しようか?」というアプローチが圧倒的に多かった。数年前のIoT展示会へ行くと、どれも「センサー付けました」っていうだけで、「だから何なの?センサー本当に要る?」って思うものがほとんどだった。一時期、やり玉に挙げられてた「クラウド洗濯機」なんていい例ですね。とにかくネットにつながるからつなげよう。んで、何すんのさ?
 ところが、最初に考えた人は違った。まだ「モノをインターネットにつなげられる」なんて技術的なメドもつかないころから、「つなげられるようになったらこんな素晴らしい世界になるのに!!」って言ってたわけです。これこそ正しい技術進歩だよね、やりたいことが先にある。坂村さんが何を考え何を目指しているのか、もっとも象徴的な部分がこんな感じです。

Internet of Thingsは、言葉どおりにとれば「モノのインターネット」。「インターネット」という言葉が入っているが、これは単にモノをインターネットで繋ぐという意味ではない。IoTはむしろ「インターネットのように」会社や組織やビルや住宅や所有者の枠を超えて モノが繋がれる、まさにオープンなインフラを目指す言葉と捉えるべきだ。

 そして、今のインターネットが、主にウェブやメールなど人間のコミュニケーションを助けるものであるのに対し、コンピューターの組込まれたモノ同士がオープンに連携できるネットワークであり、その連携により社会や生活を支援するーーーそれがIoTなのである

 すごいよね。「モノをインターネットにつなげられるようになったからつなげてみよう」なんて低いレベルの話じゃないんです。繋ぐ手段がインターネットかどうかは、どうでもいい。僕も数年前にこんなエントリーを書いて、ある程度理解した気でいましたが、全然ちがいました。恥ずかしいわ。消さないけど。

 

じゃ、実現するには

基本的な考え方はわかった。じゃ、その夢の世界は実現できるのか。
こうなると、その「素晴らしい世界」の実現に向けて一緒に夢を見られるか?というところが、実現スピードに大きくかかわってくるわけです。といっても伝わらないと思いますが、ここで先ほどの引用を再度。

 今のインターネットが、主にウェブやメールなど人間のコミュニケーションを助けるものであるのに対し、コンピューターの組込まれたモノ同士がオープンに連携できるネットワークであり、その連携により社会や生活を支援するーーーそれがIoTなのである

 今のインターネットがそうであるように、オープンということは、特定の管理システムを持たない。管理責任ももたない。インターネットでウィルスが蔓延して、「インターネット」を考えた人が非難されるか?違いますね。みんながウィルス気を付けようぜ、ということになってるし、ウィルス対策ソフトにお金を払っても、別に政府に不満をぶつけるわけじゃない。インターネットってのはそういうもんだから、です。
ところがIoTとなると。インターネットが基盤になってる考え方なのに、みんながこの考え方を受け入れられるかどうか?

特に、導入が進む過渡期に。

想像してみましょう。前の晩に、スマホから暖房のタイマーを入れておきます。翌朝はめっちゃ寒い。でも、起きてみたら設定したはずの暖房が付いてない。しかたないなあと思う人がほとんどだと思いますけど、中にはエアコンメーカーに怒鳴り込む人も。

怒鳴り込む人は、どの国にもいるでしょう。でも、メーカー側で考えてみると。

『しょーがーねーじゃん、ベースがいい加減なインターネットなんだから。エアコンは壊れてませんって』と言い張れるメーカーが日本にどれだけあるか。その前に「こういう製品を世に出しましょう」と言われた時、「よっしゃ、出そう!」と決断できる幹部が、日本の会社にどれだけいるか。

海外よりも、日本のほうが圧倒的に少ないことは、想像できますよね。

もちろん、それだけいい面もある。安全性とか品質とか、やっぱり日本製は高いと思いますもん(私クルマ、BMWのMiniに乗ってるんですけど、日本車ではありえないケースに遭遇して本当に、日本製品の高品質を痛感しました)。だけどIoTの普及ということだけ考えると、これは大きな障害になりうる。

今よりよくなるんだからいいじゃん、と思うのか、完璧じゃないから信頼したらあぶない。だからやめとけ、と思うのか。社会の全員が使うインフラになる、ということは、よくわかってない人も当然のように使う、ということです。こういうときの割り切りは、日本、弱いよねえ。

いまのままだと、世界全体にIoTが普及しきってからでないと、日本には導入されない感じがしますね。せっかく坂村さんが最初に考えたというのに。もったいないなあ。
どんどんやっちゃって欲しいですね。

-書評, 考察・意見