書評 考察・意見

理想的な会社は、どんな考え方のもとにできたのか。すいません経営。

会社って、なんのためにあるのだろう。

フリーランス全盛期、自分で仕事を見つけることもできる。ギャラが安くてよければ、あんまりスキルがなくてもやれる仕事はあるし、少しだけトレーニングすれば多少稼げるようになる仕事もある。

そんな世の中で、なぜ会社で働くのか。あなたは、なぜですか。

僕にとって、会社は、「やりたくないことをやらずに済ます」ためにある。つまり、やりたいことだけに集中するため。経理、人事、もしくは政治的おつきあい、などなど。やりたいことをやるために、やりたくないことを他の人に任せる。頼み事すら下手な僕には、頼まなくてもやってくれる、役割分担はありがたい。

おまけに、僕は会社の中で少し変わった嗜好らしく、他の人があんまりやりたくない仕事 = 僕がやりたい仕事 となることが結構ある。結果、誰もやらないけど僕にとってはめちゃめちゃ面白そうな仕事が回ってくることが、たびたびある。 

そんな、ある意味ネガティブな理由で会社に属している僕ではあるが、『ほぼ日』は中で働くのが面白そうな会社だなあ、とずっと思ってきた。東京糸井重里事務所 だったころから。

もちろん、糸井さんやメンバーの発信を見ているから、というのはあるだろう。良い面だけが見える、という部分は大いにある。でもそれは、他の会社でも同じこと。どこの会社だって外からは、影の部分は分からない。

それなのになぜか、ほぼ日には惹かれていた。そこに、こんな本が出た。

 正直、いくらほぼ日とはいえ、あんまり「経営」には興味がなかった。しかし読んでみたら、この本はとても面白かった。経営という言葉すら、ほぼ日にかかると、面白い意味になる。つまり、戦略がどうこう、財務がどうこう、ビジネスモデルが、イノベーションが…という話ではなくて、「こんな風な場(会社)を創りたくて、いろいろやってきた」という話になっている。言ってみれば、物語だ。

確かに、経営とは大きな意味で言えば「会社をどうしていくか」ってことなのだから、別に意外な話ではない。ひとりの子供が育つ過程が、ひとつの物語になるように、ひとつの会社が育っていくのも、ほんとうは物語になるのだろう。でも、僕は様々なビジネス書を読むうちに、経営という言葉を小さな箱に閉じ込めて、あんまりおもしろくないものというラベルを貼っていた。

「経営ってそういうことだったのか」みたいなタイトルの本も何冊か読んだけど、どれも、最後まで読みきれなかった。池上彰さんが書いた薄い本ですら、だ。僕は相当な「経営」嫌いなのかもしれない。

ところがこの本は、どんどん読み進めたくなった。めったにない楽しそうな会社は、やっぱり、めったにないやり方で経営されていた。

『やさしく、つよく、おもしろく。』という方針。
新商品開発にあたってマーケティングをしない、というやり方。
みんなが助け合う、ゆるい業務分担。

そういうスタンスが、Webサイトはもちろん、開発する商品にもにじみ出て、その結果、お客にもいい人がつく。

そんな理想的な状況は、やっぱり考え抜かれて試行錯誤の上に成り立っていた。

そして気がつけば、そのやり方は、最先端になっている。

つまり、ロジカルシンキングの限界が見え、世の中がデザイン思考の重要性を認識し始めた時、そこにはもう、ほぼ日があった。完全に僕の私見だけど、デザイン思考を会社全体で実践している、それがほぼ日であると思う。

マーケティングをしないとか、論理より共感とか、ニーズじゃなく、顧客が喜ぶかどうかでブラッシュアップするとか。たぶん、デザイン思考という言葉に閉じ込めてしまうのも違うんだろうけど、今のところ一番しっくりくる言葉だ。

数字とか、イノベーションとかじゃなくて、「みんなが楽しく働ける場」をどうやって作るか。

具体的に「こうすればできる」なんて小手先ノウハウが書いてあるわけじゃないので、読んだからと言って明日から実践できるわけじゃない。ある意味、漢方薬的な本。でも、その分、体に優しい。「こんな会社で働いてみたいなあ」と感じるためだけに読むのでも、ちょっと希望が湧いてくる。

 

いわゆるビジネス書ではカバーできないものが、この本にはある、と思う。そしてそれは、今の世の中に求められていることでもある。

なんとか、少しでも真似していきたい。

photo credit: wuestenigel Paper clips on white background via photopin (license)

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