書評

外部環境に対してレジリエンスを持つ企業とはどういう企業なのか。「未来企業」レビュー

これ、読みました。

本の内容

一時的にへこんでも、へこたれず立ち直るチカラ。
これをレジリエンスと呼ぶ。
不屈の精神とか、折れない強靭な心という意味ではなく、しなやかで弾力性に富んだ、という意味でへこまないチカラ。

価値観の多様化により市場や従業員の価値観といった環境が複雑化し、よりいっそうのスピードと生産性を求められる現在、企業にとっても個人にとっても、このレジリエンスがより大切になってきている。

本書では特に企業・組織にとってのレジリエンスにスポットをあて、しなやかで潰れない企業、組織を作るためには、企業は、そして企業の一員としてのリーダーはどのようにあるべきかを考察する。

ひとつには、個人の自主性を重んじて最大限の効果を発揮できるようにすること。
リーダーは短期的に結果を出さねばというプレッシャーに打ち勝って長期的に大切な問題解決に取り組む勇気を持たねばならない。

上から落ちてくる「やらねばならないこと」ではなく、やりたいこと、重要だと思うことをやって行くこと。それがレジリエンスの高い、しなやかで潰れにくい組織を作る。

てな話。
ただ、一言でこうまとめてしまうにはちょっと無理がある。

そもそもの伏線として、本書は前作「ワークシフト」の企業版である、という位置づけがある。

「ワークシフト」は、

インターネットやコミュニティの発達により
世界中の人とチームを組んで、個人としてアウトプットできるようになる時代、複数の専門性を身につけながらその組み合わせで独自性を出し、唯一無二の存在として仕事ができるようになっていこう

という、個人としての働き方変化を取り上げたものだった。
www.learn-4ever.net

じゃ、そういう時代に企業はどうすりゃ良いんだ、というのが本書。

多様なスキルと価値観を持つメンバーを抱え、企業の側もいままでのように「ひとつの目標に向かってとにかく皆同じことを同じやり方で頑張るんだ」ってやり方じゃダメ。

そういう、柔軟性に近い意味でも「しなやかさ」すなわちレジリエンスが求められるってこと。
その柔軟性、あるべき姿を事例を引き合いに出しながら考えていく本となっている。

…が、明確に「こうだ!」という結論は明示されていない。
そりゃそうだ。
多分、これからの企業がどうあるべきかなんて、そんなに単純な問題じゃないから。

だからこのレビューも、一部を取り上げるような形でしか書けない。
本エントリーを読んでくれた方には申し訳ないが、
要約でこの本をわかった気になるのは危ない。
できれば、本書を実際に読んで欲しい。

ぼんやりながら、これからの企業に大切なものが見えるだろう。
くっきり見えたら逆にウソだろ、と思うくらい大きな話だ。

で、これを読んだ自分はどうするか

前作 ワークシフトの時もそうだったが、彼女の著書は今すぐ行動に移してどうこうする内容ではない。長期的に見てこういう方向へ行くでしょ、という内容なので、明日から何を実行しようとか、すぐ効果がでるとかではない。

ただ、本書で述べられている、これからのリーダーのあり方、組織のあり方は強く意識すべきだろう。

強力なリーダーシップよりも、自律的なフォロワーシップにより物事が上手く回るようになる。
おそらく、これまでリーダーになるために鍛えてきたものとは全く異なる能力が重要になる。

業績を上げることのみに邁進するのではなく、社会にとって自社の業務がどう貢献できるか、どう貢献したいか、さらにいえばどんな社会にしたいか、を定め、そこへ向かって皆で努力する。

よくあるCSRじゃなく、本業での、本当の意味での
「企業の社会的貢献」を発揮していくことが、そのままレジリエンスの高い企業を作ることになる

そりゃそうだね。
利益のためになりふり構わない企業なんて、成熟した社会でずっと存続するわけない。
いつかは破綻するもんね。

神様は見ている、なんて抽象的な話じゃなく、社会に必要とされる企業なら、そりゃなくならないでしょ、っていう。

ソーシャルメディアの普及などで、その気になればいつでも個人指名で仕事が舞い込むようになり「いい人」であることが生きていく上でのセーフティネットになってきてる、

という指摘がしばらく前にあったけれど、
そういう意味では、企業も「いい人戦略」をとることが大事になってきてる、ということ。

なんだろうな。
「収入よりもやりがい」という価値観が、個人だけじゃなく企業にも大事になってきてるのだろう。

そういう視点をぼんやり持っておくことが、今の僕にできること。

覚えておきたいフレーズ

あとは、上記のような文脈のなかで現れた、特に覚えておきたいフレーズ。

常にプレッシャーがかかった状態だと、未来に備えるために必要な勇気や創造性を発揮してイノベーションを起こし、精神的活力を高めるのは非常に難しくなる。

高業績に向けたお尻たたきが、実は高業績の妨げとなる、という視点。
お尻たたきでは、実力比100%の業績を出す事はできるかもしれないが、実力比120%の業績をだすことは出来ないだろうなあ。

高い成果を上げるチームが他のチームと一番大きく違うのは信頼関係

信頼できない、とはっきりするまでは信頼する、というやり方。
これも実力以上の業績をあげていくために必要な視点だろう。
そのほうが面白いし。

理想論であることは否めないが、単に理想論だと諦めたくはない話。それが上記フレーズ含めて、本書の中味と言えるでしょう。

最近頻発される、わかりやすく断片的、断定的な小手先ビジネス本とは全く異なり、
モヤモヤぼんやりした読後感の本ですが、それゆえかえってオススメです。

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