そうじゃない 書評

シンデレラって本名じゃない?じゃなんなんだ。

気になっていたシンデレラ、読みました。 

「へぇ~、知らなかった」ということばかりで、とても面白かった。よく知ってる話なのに、こんなに知らないこと、気づかなかったことが多いなんて。それを気づかせてもらう楽しさが、この本にはあります。

 

1.シンデレラは本名じゃない

 まず「シンデレラ」というのは名前じゃないんだって。「むかしむかしシンデレラという女の子がいました」じゃないんですね。知ってました?僕は初めて知った。じゃシンデレラとは何なのかというと、小ばかにしたあだ名なんだそうです。(かまどの)灰をかぶってる小娘 みたいな意味らしい。日本で言えば「飯炊きの小汚い娘」ってところでしょうか。「むかしむかしあるところに女の子がいて、炊事洗濯などの家事一切をやらされていたので、シンデレラと呼ばれるようになりました」なんですね。日本人には、いかにもお姫様らしい美しい響きに聞こえますが、実はこれ、ぜんぜん美しい名前じゃない。驚きだったわ。
 でもなんで、そんなあだ名をタイトルにするの?と考えると、「マッチ売りの少女」とかと同じことなんですね。「赤ずきんちゃん」もそうか。昔話では固有の名前がついてるほうが珍しい。それは、「むかしむかしあるところに・・・」という普遍化のためなんです。長年、口頭伝承されるうちに、普遍化を妨げるようなディテールは削られていくわけです。しかも、「飯炊き娘」というタイトルにすれば、主人公が置かれている立場が瞬時にわかる。よくできてるよね。

 

2.似た話がめちゃくちゃ多い

 内容の似た昔話が、全世界で数百あるそうです。もはやどれがオリジナルかは不明。それらが全世界で同時期に生まれたのか、はたまたどこかにオリジナルがあるのか、わからない。
 確かに、継母にいじめられたあと幸せになる話、ってのは日本でもよく聞くね。
しかし逆に言えばそれは、「何がオリジナルのシンデレラか」というのはどうでもいいことだ、とも言える。全世界的に、継母にイジメられて最後幸せになる話はウケる、ということなのでしょう。
 となると、世界のあちこちで、話す人が、自分の見せたいもの・自分が込めたいメッセージをシンデレラのストーリーに投影させて語り継ぐことになる。
あるいは、聞く側が「こうあってほしい」シンデレラを受け入れる。そうやっていろいろなバージョンが枝分かれしていく。あまたあるバージョンそれぞれに、どういう背景でどのようなメッセージを込めたかったのか、推定してみるとその違いがまた面白い。

3.世界でメジャーなシンデレラを三つ比べてみる

 そういう前提で、最も有名な、ペロー版(フランス宮廷版)、グリム版(ドイツ文学者版)、ディズニー版(アメリカンポップカルチャー版)のシンデレラを比べてみると・・・

  • ペロー版
    背景・話を編集した目的:身分が大事。庶民が大逆転なんてありえない。親しみやすい形でフランス宮廷文化の礼さんがしたかった?
    話の趣旨:もとは身分が高いのに不遇な目に遭っている娘が、魔法使い(パトロンの象徴?)のおかげでV字回復するお話。
    メッセージ:結局、血筋が違うのだよ、血筋が。あるいはパトロンを捕まえられれば何とかなる。というメッセージだと読めなくもない。
  • グリム版
    背景・話を編集した目的:文学者が、大人の鑑賞にも耐えうる形で童話をまとめたかった。民話の伝承。
    話の趣旨:自らの知恵と行動力で道を切り開いて、幸せをつかむ話。
    メッセージ:知恵と行動力があれば下剋上も夢じゃない。と読める気もする。
  • ディズニー版
    背景・話を編集した目的:アメリカ的平等を重んじる文化。階級とか関係ない。そのうえで子供に夢を。
    話の趣旨:べつに血筋がいいとかじゃないけど、性格の良さと美貌があればハッピーエンド、というお話。グリム版と比べて、現状を打破する努力はしないけど・・・。
    メッセージ:真面目に清く正しく生きていればいつか報われる、ともとれる。

という感じ。(違いを分かりやすくするため、私の解釈でかなりディフォルメしています。)

シンデレラひとつとっても、こんなに奥深い世界があるのです。面白いね。

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