
(前半のレビューはこちら)
さて、この長い長い本の後半戦。
読み進めて行ったら・・・うーん。私、「風の谷」を誤解していました。
思ったより厳しい話だわ、これ。
土地選びがとても重要
それぞれの田舎を風の谷にしようよ、という話だと思ってました。どこにもそんなふうに書いてないのに、なんとなく勝手に。
でも違った。風の谷になれる田舎には条件がある。
景色がよく、あらゆる災害に比較的強く、自然の恵みを受けられる場所しか、風の谷には適さない。
なぜなら、都会の利便性を捨ててまで人が集まる魅力があり、かつ、中央から供給される形のインフラに依存しなくていいように「自然に助けられたインフラが整う場所」じゃないと続かないから。水道とか、電気とか、道路とか。
人間のチカラで強引に、どこでも風の谷になろうぜ、という話じゃないのです。
全てのふるさとが風の谷になれるわけではない。ある意味救いがない部分がある。
まあしかし、当然といえば当然。前回書いた都市依存型費用構造と、人口が減っていく状況では、ね。もともと住みにくい土地を、コンクリート詰めにして、赤字にしてまで住まなくていいよね。ということなんです。
考えてみたら当然なんだけど、最初に聞いた人の多くが「自分の故郷を風の谷にしたら、いつまでも美しい故郷を元気な状態で残せる」って思っちゃうんじゃないかな。無意識に希望的拡大解釈をしてしまう。でも、違うんですよ。そんなに甘くない。
前回、簡単に「手伝いたいな」とか書いちゃったけど、読み進めるうちに「う・・・」てなりました。
場所にもよるけど、自分の故郷を残したい、というささやかなエゴすら、もしかしたら風の谷構想と相いれないかもしれない。
と思えてきたのです。
選んだとしても難しいから小分けにする
でも、あなたの故郷が生き残れるわけじゃないからと言って、今のまま行ったら、少数の美しい田舎すらなくなっちゃうよ、ということなんですね。
だから取り組もうと思うんだけど、取り組まなきゃいけない問題はあまりに大きく、ぼんやりしている。そこでこの本が、取り組むべき問題を小分けに、具体的にしてくれる。水道はどうするか、電気は、道路は、家の配置は、教育は、医療は、などなど。何から手をつけるか、検討もつかない状況から、「大変だけどひとつひとつクリアしていけばいいよね」というレベルにまで噛み砕かれる。
終盤に立ち上がる希望
しかしなあ、そうか~、これならできそうな気がしてくるけど、うちの田舎は無理か~、なんて読み進めていくと…実は最後に希望が復活してくるのです。希望というか、安宅さんからのエールかな。
この全体および領域別のガイドラインが、みなさん1人ひとりの谷づくりの航路を照らす羅針盤となればと思う。
やっぱり、君たちは君たちでやりましょうよ、という呼びかけなのです。安宅さんがすべて面倒見れるわけがないので、これまた当然の話。
ってことは、場所選びも、自分たちでやればいい。でもそれは同時に、自分たちで考えて、自分たちで責任もってやらなきゃならないということです。むむ。希望とともに、責任がついてくる。確かに、前半レビュー書いたときに私は、「誰かリーダーがいて、そのお手伝いをする」くらいの感覚でいました。ハードルを上げるつもりはなくて、皆できることからやればいいけど、「誰かがやってくれるだろう」というスタンスではアカンってことですね。
それでみんなが取り組めるようになれば、風の谷も増えるし、それぞれの地域改革が自走できる。
この系は特定の誰かが一方的につくるものではなく、日々の営みのなかで無数の人の手と心によって、少しずつ育まれていくものだ。
なるほど。ガイドラインはあるけど、自分たちで選んでいいんだ。だったら、やはり、自分の田舎を風の谷にできる可能性はある。すべての問題を解決できるとは限らないけれど、その土地ならではの解決法でやったっていい。あるいは、ある問題は解決しないまま残す、だっていい。農業に適した地方で、製造業の課題までカバーする必要はないわけです。製造業より農業が盛んな谷、になればいいだけ。
結局、「風の谷という方向性の意識統一と、問題の小分け」。それがこの本の中身でした。本のカバーは理想論だけど、中身は超実用書。そんな感じ。それでこんなレビューになっちゃうわけです。
できれば、読んでほしい。長くて大変だけど。もし本に手を出しにくい人は、Youtubeやほぼ日のWebサイトで、風の谷の説明がされているので、見てみてほしい。範囲が広く深い話なので、私の書評が的確かどうか、怪しいもんですし、ね。