
オノ・ヨーコさん、知っていますか?
知ってるに決まってるだろ、と言われそうですね。でも、彼女の何を知っていますか?
この本の「プロローグ」を読んだだけで、僕はほとんど知らないのだと痛感しました。
プラスティック・オノ・バンドのアルバムを一枚持ってるけれど、いわゆるアーティスト作品としては、全然知らない。ひたすらお尻が出てくる映像(ボトムス)を知ってただけ。それひとつで、自分には理解できない前衛芸術家なのだと思ってた。
でも僕のような人、つまりは世の中の多くの人におすすめしたい。この本は、読んだほうがいい。世界が広がるから。
どういう本か
ひとことで言ってしまえば、オノ・ヨーコの伝記。ただ、僕らは彼女を知らなすぎる。あるいは全く調べもせず、世間に作られたイメージでとらえてしまっている。だから、インタビューに基づいた事実を淡々と並べられるだけで、ものすごく新鮮な話ばかりに感じる。全然、理解不能な人じゃなかった。作品も、ぶっ飛んでるものばかりじゃない。先進的ではあるけれど。
これまでどういう作品を作ってきたか。
ジョンレノンと出会ってから、あるいは死別してから、どのように世間に思われていたか。どのような仕打ちを受けたか。作品はどう扱われたか。
それらが誠実な筆致で描いてあるだけなんだけど、とにかくすごい。ジェットコースターなんて表現では全く足りない。
アジア人差別、女性差別の中でアーティストとして活動をつづけ、無視されたり、物議を醸したり。それでも徐々に評判になって開いた個展で、世界のアイドル ジョンレノンと出会って結婚する。それで余計に世界を敵に回す。夫を亡くしても叩かれる。
別にビートルズに関心があったわけじゃない。ただ、自分がアーティストとして表現をしたかっただけ。その道の途中にジョンがいただけ。そして、ジョンと共鳴しただけなのに。
なんという過酷な人生。で、ありながら、それでも人を信じ作品を発表し続ける精神力。
あの時代のバッシングなんだから、そりゃーえげつない。嘘だろうが何だろうが広めたもん勝ち。今の比じゃなく容赦ない。それらを、撥ね退けたとは言わないが、負けなかった。
そんなことがわかる本です。
アーティストとしての彼女を知る
この本に対して、どうこう解釈することはあんまり意味がない。読んでもらうのが一番。
ただ、読んだ結果、一番面白いのは「オノ・ヨーコの作品をもっと見てみよう」と思えること。
今でこそよくある、観客参加型のアート。それを始めた、かなり初期の人らしい。
しかも、観客参加によって出来上がっていく作品そのものより、参加したことで観客ひとりひとりの心で感じるものこそが、彼女の作品であるように思える。ヨーコが来ている服をハサミで切り取ったとき、切った人は何を感じるのか(カット・ピース)。とか。
次に作品に目を向ける
それを踏まえて、大阪万博2025 静けさの森にあった「クラウド・ピース」をもう一度見てみる。よくわからないけど、初めて生で見たオノ・ヨーコ作品ということで、数カ月前に写真に撮ってた。撮っておいてよかった。こんな風に見返すとは思わなかった。

万博の雑踏にあって不思議なほど静かな、静けさの森。その片隅にある丸い鏡。覗き込むと当然、空が映っている。それを見て何を感じ取るのか。
オノ・ヨーコには、空をテーマにした作品が多いらしい。
「ウォーター・ピース」という作品では、水面に映った月を盗めという指示があるそうだ。スカイピースという作品もある。よく分かりはしないけれど、お尻の映像作品ほどの距離は感じない。なんか良いな、と思える。
そういった作品と、この本を入り口にして、オノ・ヨーコの展覧会に行ってみるのも良さそうです。
最後に、彼女の作品スタンスをわかりやすく示す、本書の文章を引用します。
ヨーコは一生を通じてコミュニケーションの新しい方法を編み出そうとしてきた。
問題提起とか、なぞかけとか、抗議とか、芸術家によって違うと思うけど、オノ・ヨーコにとってアートとは”コミュニケーション”らしい。言葉じゃない新しいコミュニケーションを体験してみようかな、というノリで、見てみたくなる。
また、僕の世界がひとつ拡がった。この本、おすすめです。300ページ以上あるけど、読みだしたら止まらないよ。