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面白くて、生きるのが楽になる。人間だって生き物ですから。増えるものたちの進化生物学 レビュー

2023年8月2日

僕らはなぜ、生きているのでしょうか。
死ぬのがイヤだから?突きつめて言えば、そうかもしれません。
「そんなネガティブな理由じゃない。私にはやりたいことがあるから生きているんだ」という人も多いでしょう。
でも、やりたいことが終わったら死ぬの?と聞けば、Yesとはならない。
そんな高尚な話じゃなくてさ、人間も生き物として考えようよ。結局本能的には、死ぬのがイヤだから生きている。それは別に、悪いことじゃないし。そっから見つめなおしたら、生きるのがちょっと楽になるんじゃないかな。
そんな面白い視点の本を読みました。

どういう本か

まずは、目次を紹介しましょう

  1. なぜ生きているのか
  2. なぜ死にたくないのか
  3. なぜ他人が気になるのか
  4. なぜ性があるのか
  5. 何のために生まれてきたのか

目次だけ読んだら哲学書みたいですが、違うんです。これらの内容を、生物、特に「どうやったら自分の遺伝子を多く残せるか」という切り口から説明してくれます。これが見事に説明されていて、しかも今まで触れたことのない切り口。非常に面白い。

何が面白いのか

「なぜ生きているのか」哲学ではよくある話です。この頃で言えば心理学などもここに触れていますね。フランクル心理学などでは「人生に意味があるのではなく、人生のほうがあなたに意味を問うている」なんて考え方もある。これはこれで、私は好きな考え方です。
しかしフランクル心理学の考え方は、ちょっと頑張りや強い意志を求めるものでもある。

対してアドラー心理学では、「人間の悩みのほとんどは対人関係ですから。相手に期待しすぎたり、自分がどう思われているか気にしたりするのはやめて自分に集中し、楽になりましょう」てな考え方ですね。雑にまとめると。

さてこの本。どちらかというと、アドラー心理学に近いです。ただ、もう少し根っこの部分から問題を見つめている。つまり「対人関係が気になるのは、人間がそういう生き物だからです」「対人関係を良くしなきゃならない という本能の圧力があるだけですから」てなことをいうわけです。その上で、「気にしちゃうのは本能だから仕方ない。でも、本能のせいだとわかれば、ちょっと無視しやすくなるでしょ?」ということですね。

おなかが減ってるけど、ご飯食べたいのを我慢して仕事する なんて楽勝じゃないですか。
だったら、「他人からどう思われるか、気になるけど気にしないことにする」もできるし、やっていいんじゃないの?ということですね。

私はこれを非常に面白い考え方だと感じました。対人関係を気にしても良いし、しなくてもいい。その時々で、自分が良いほうを選べばいいよ。ということなんです。言い方を変えれば、別に一貫性なんかなくていい。対人関係を保ちたいケースではそうすれば良いし、対人関係がストレスになる場合は、そこから自由になればいい。都合よくあなたが決めて良いんですよ。ということです。

他にも、「他力本願は社会的生き物として正しい」みたいなことも書いてあったりして、なかなか意表を突かれます。

やさしさが広がり続ける

さて自分個人は、その時々で都合よく判断すればいいとして、種としてはどうなっているか。この視点も面白い。
人間には、他の種に対して優しさがある。深い溝に落ちた犬を助けたニュースとか、よくあります。やっぱり理性のある人間は違うよね、なんて。

ところがこの優しさすら、種の保存本能から生じていると考えることができる。他者に共感し優しくすることで自分が生きやすく、死ににくくなり、より優しくする能力が強化される。というわけです。

なんか、腑に落ちました。最近のスポーツ選手って、性格が良い人多いでしょ。頭が良くてスポーツもできて、さらに性格も良い人がこんなに出てくるなんて、世の中も変わったなあなんて思っていましたが、そのほうが生物として理にかなっている。
つまり、優しく性格が良いほうが、人間社会でうまく生きていけて、子孫を残せる可能性が上がる。だから良い性格のほうが遺伝しやすく、世代が進むほど性格が良くなる。ということなんですね。
「性格が良い」を「お金儲けがうまい」に置き換えても、上の文は全く成り立ってしまうだろ?というツッコミはありだと思います。ただ、最近はお金儲けがうまいより、性格が良いほうが有利な気がしています。皆さんはいかがでしょうか。

こんな、いままで思いもしなかった視点、生き物として・種としての視点から世の中を見ると、また違った面白さがあります。単に面白く読むだけでも良いし、未来予測にも少し役立ちそう。お勧めです。

※ちなみに、図書館で探してみたら、わが市の図書館では15人待ちぐらいでした。かなり人気のようです。個人的にはこの本、買う価値ありと考えますが、図書館で半年待って読むのもアリですね。

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