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感情に駆られて動くのは、冷静より賢いかもしれない、という話。「社会的ジレンマ」レビュー

その時の感情に駆られてやっちまうタイプですか。それともいつも冷静なタイプですか。

私は後者だとよく言われます。自分でもそうあろうと意識してきました。しかし、感情に駆られて動くのは、DNAに刻まれた大切な生存手段かもしれない。この本を読んでそう感じました。

どんな本か

まず、本のタイトルにもなっている「社会的ジレンマ」とは何か。

皆がそうすればいい方向に行くのに、ひとりだけそうすると損をする。だからなかなかいい方向へ行かない。そういうジレンマのことです。

例えばイジメ。みんなでいじめっ子に注意すれば、クラス全体が良い方向へ行くのに、自分が最初に注意をすると、自分が標的になってしまうかもしれない。見て見ぬ振りが多くなるのは、そういう理由ですよね。良くはないけど、個人の生き残りとしては、ある意味合理的な(かしこい)選択です。

しかし、本当に賢い選択じゃないのは、言うまでもありません。
じゃどうするんだよ。いつまでもいじめはなくならないのか?

そのジレンマを解決するのが、「悪に立ち向かうのは気持ちいい」という感情。逆側から言えば、良心の呵責。なんで僕らには良心の呵責なんてものがあるの?

そうです。個人単位では合理的な「自分さえよければいい」選択をしてしまうところ、そうではなくて社会全体として良い方向へ行動するように、感情レベルで仕込まれているんです。僕らは。

という話です。面白そうでしょ。

理性的よりも感情のほうがいい場合

他にも世の中には、そんな例があふれています。例えばごみの分別。自分だけで考えたら、分別なんて面倒でやってられないけど、みんながやってるからやる。グリーン電力のほうが値段高いけど、気持ちよく使える。それらは理性で良いほうを選んでいる、教育のたまものと思っていたけど、完全にそうとも限らないんですね。

短期的、狭い視野で理性的な判断をしてしまうことなく、感情に従うことが、かえって長期的・広い視野でプラスの選択になることがある。

他にも、さまざまな実験結果がいろいろ紹介してあります。中でも面白いのは、自分の利益優先で動く人にどう対応するのが良いか、という話。
良い人になるならば、誰に対しても協力する、「右の頬を打たれたら左の頬を出せ」が一番いいように思えますが、違います。「目には目を」「協力してくれない相手には協力しない」というやり方が、良い人にとっても結局トータルでの利益を最も大きくするそうです。
少し前の話で言えば、アメリカファーストの某大統領には、説得や協力呼びかけじゃなく、自国ファーストでやり返す。他の国とは協力し合う。それがベスト。
自分優先の人を甘やかし続けると、調子に乗り続けるから、いつまでたっても全体の利益が伸びないんですね。これもまた、感情的な対応のほうが長期的に良い。

情けは人の為ならずワールドの実現

とはいえ、「感情に駆られて動くことを、意識的に選択する」なんて無理。無意識であることを意識する、みたいなものですから。

そうすると、世の中や社会をどう設計していけばいいか、という話になってくるわけです。場面ごとに、いい人で行くか、目には目をで行くか判断するより、いつもいい人として活動したほうが、結局自分にもプラスになる。そういう社会にしていけばよい。

「情けは人のためならずワールド」とでも言いましょうか。

この本は20年前に書かれたので、「具体的に社会をどうすればいいかはこれからの研究課題だ」と締めくくられていますが、実は現代の中国にヒントがあると私は感じています。この本なんかに詳しいですが、

中国では、スマホで個人の信用スコアがつくようになって「いい人であることが得になる」社会が到来しているからです。社会的ジレンマとアフターデジタルを併せて読むと、面白く気持ちの良い社会になっていく希望を感じます。

「社会的ジレンマ」お勧めです。

 

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