書評 考察・意見

最も過酷な状況を生き抜いた女性が、手に入れた結論。「The Choice」レビュー

どういう状況にあっても、自由にいられる方法は、ある。逆に言えば、どんなに自由でも、自分が束縛されているように感じることも、ありうる。それは自分次第。自己責任とは違うけど。

この本を読みました。400ページ以上ある長い本なのに、むさぼるように読んでしまった。

どんな本か

このタイトルで、半分ぐらい説明はできますが…アウシュヴィッツをはじめとした、ユダヤ人強制収容所を生きのびた女性の自伝です。ただ生きのびただけじゃなく、その後、心理学を学んで50歳で臨床心理士となる。自らに残るトラウマと向き合ったり、時に目を背けたりしながらも、人々を導く存在となる。そんな話。

自伝と名がついていますが、伝記ではないです。言い換えると、何が起きたか、を伝える本ではなく、起きたことに著者がどう向き合ったかという本です。だからかもしれません。強制収容所などで確かにひどいことが起きているけど、その描写も含め、目を背けることなくグイグイ読み進めてしまうのです。決してオブラートに包んであるわけではないのに、どこか希望の目線がある。そして、「ヒリヒリするような選択をして、結果として生き残れた」救いのある物語であるという要素も大きい。

とても驚いたのは、第二次世界大戦が終わる、つまり強制収容所での物語が終わるのが120ページ付近だ、ということです。この本のたった1/4過ぎたところで、壮絶な体験記が終わる。

それが何を意味するか。私は「壮絶な体験自体より、その後の人生で体験をどう活かすかに重きが置かれた本である」と理解しました。これはすごい。

何を得たか

これはやっぱり、要約で読むような話じゃないのでぜひ本を読んでいただきたいですが、私が本を読んで得たものを書いておきます。

いきなり話が変わりますが、椎名林檎の「ありあまる富」といいう歌をご存じですか。本を読んで、この歌を思い出したんですよね。


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もしも彼らが君の何かを盗んだとして
それはくだらないものだよ
返して貰うまでもない筈
何故なら価値は生命に従って付いてる

この歌を聴いた時、「あぁ、心の中にあるものは奪えないってことだよね」と分かった気になっていましたが…本書を読むとこれ、本当の意味を痛烈に実感することができます。この感覚を実感するために読んでも良いぐらい。

自分に何かが起きた時、それをどう受け止め、どう対処するか。その知恵を両手で受け取る感じです。

過去の自分に縛られない

ポジティブな面から説明してくると、上記のようになるわけですが、当然、心の持ちようだけでいつでも悲劇を乗り越えられるわけじゃない。あるいは、乗り越えたと思っているけど、それは思い出さないようにしているだけ、とか。

本書では、様々な患者とのエピソードの中で、過去に、あるいは他者に縛られていた自分を認め、そこから自由になる様子が語られます。「どんな悲劇的なことが起きても、どう受け止めるかは自分次第」とだけ言われると、ポジティブに受け止めなきゃダメみたいに伝わると思いますが、違うんです。

とても難しいけれど、まずは自分を縛っているのは自分自身であるということを認める。そして、自分自身の何が、自分を縛っているのか見つめなおす。ポジティブでもネガティブでもなく、ただフラットに見つめなおす。それで初めて自由になる。
見つめなおしたら、それをポジティブに受け取るか、ネガティブに受け取るか。どう行動するか。その選択肢はあなたにある。過去のことでも、(どう受け取るかは)今から選びなおせる。それが本書のメッセージ。原題「The Choice」が意味するところです。

この本、おすすめ。ビル・ゲイツが激推しするのも納得です。

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