書評

未来を見ることができるメガネ、またの名を落合陽一。魔法の世紀レビュー

この本、読みました。
すっっごい面白かった。

どういう本なのか

様々なことの「伝え方」自体を工夫して作品にする、
メディアアーティストのお話。
例えばこんなやつ。

「人にものを伝える」という行為は、
洞窟に壁画を描いていた太古の昔からあるわけですが、
20世紀になって、伝え方のひとつに「映像」が出てきて
大きな変革となった。
大きすぎるが故に、映像の次にくる「新しい伝え方」を見つけるのはかなり難しい。
でもいま、ネットが出てきてデータ処理速度が上がり、
次のステージが見えてきた。
それがIT技術を使った「魔法」だ、というわけです。

魔法というのは便宜的な表現でありながら、言い得て妙。
「今までの常識では理解できないような、ものの伝え方ができる」っていうこと。

こりゃ面白いですよ。

例えばこんな考え方が手に入る

「新しい伝え方を考えだすこと」がそれほどすごいことなのか、
という気もしなくはない。
特に彼の作品を見ると、素人が見たら「面白いね」で終わるものも多い。
「現代アートに興味のない人たちが見ても、面白いと思う」
というだけでもなかなかのアーティストですが、
さらに、それらの作品が生み出される背景となる
すごい思想、理念、そして視点があるんです。

それがこの本で余すところなく語られている。

そんな考え方したこともなかったな、
という話のオンパレード。

例えば、デジタルの弱点。
デジタルは0、1の世界なので、微妙な部分が抜け落ちてしまう。
なんて言いますよね。
元エンジニアである僕でも、そう思い込んでました。

だけど、違うんですね。
デジタルデータがアナログに及ばないように思うのは、
「コンピューターが人間に手加減してる」
からなんです。

例えばCD。
やっぱりアナログレコードの温かみのほうが。
なんて思います。

違うんです。
CDは「どうせ人間の耳なんてこれくらいしか
違いを感知できないでしょ。
それ以上きめ細かくしても無駄だから
きめ細かさはまあ、こんなもんでいいじゃん。」
の結果なんですね。
デジタルが本気出したら、アナログレコードの音なんか簡単に再現できるし、
さらに言えば、生音に限りなく近づけられる。
ペイしないから手加減してるだけなんです。

CDが可聴域外の音をカットしてる、てのは知ってましたが、
手加減してるとは考えたことなかったです。
でも言われてみりゃそうだわ。

結局、この本を読むと何が良いのか

このあたりは手始めで、
もっと大きい(メタな)概念の話がバンバン出てきます。

例えば冒頭で紹介した動画の元になる思想。

光は目で感じるもの。
音は耳で感知するもの。
なんてあたりまえですが、
「触れる光」を作ることで
光を触覚で感知するものとしてみせるとか。

それはアーティストのひねくれ発想なんかじゃなくて、
「五感って人間基準のものだろ?
別に人間基準でこの世界をとらえなくても
いいじゃん」
という話。
これ、すごくない?

もう、こんな話がどんどん出てきて、
今までのものの考え方がぐいぐい拡張されるのが
むちゃくちゃ気持ちいい。
とてもじゃないけど、本全体を包括したレビューなんて書けません。
とにかく一回読んでみて、というしかない。

本の内容自体、何度も書いたようにとても面白いんだけど、
本を読み終わって強烈に感じたのは、
こんなすごい考え方が、たった千円前後で手に入るってことだった。
すごく頭のいい人が何年もかけて考えたことを、
ぼくらは千円と数時間で、自分の頭にインストールできてしまう。

落合陽一氏と同じ目線で、この世の中を見ることができるようになる。
ちょうど、「落合陽一」というメガネをかけるみたいなもんだ。

すごいよね。お勧めです。

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